Works2025.07.04

素材、質感、モダンさーー
選ぶことで見えてくるもの

L.Aに届けた、日本らしさ

“INTER LOCAL”を掲げて結んでいく

インテリア、食、芸術、文化、エンターテインメント。日々の暮らしにも人生にも大切な興味関心の軸を持ちながら仕事をしていると、思いがけないところで点と点がつながる場面があります。そのひとつが、2022年に任せていただいた「JAPAN HOUSE Los Angeles」が有する懐石レストラン「UKA(うか)」のテーブルウェアのセレクトでした。

JAPAN HOUSEは、日本の文化と日米交流を通じた人材育成を目的に、外務省がサンパウロ、ロンドン、ロサンゼルスに設置した情報発信拠点。3つの館ともに物販や展示企画、セミナーなどで日本の伝統・大衆文化、地域の魅力に触れる機会を広く提供しています。ロサンゼルスのJAPAN HOUSEはOvation Hollywood(オーベーション・ハリウッド)内に置かれたことで、この地に訪れる観光客や高い感度を持った人びとにも注目されると期待が高まっていました。

異国文化を知ること、他者理解を深めるなかで、食の分野は地域性・歴史・文化的要素、そして料理人による技術とセンスで総合的に表現されるもっとも重要な領域だと常々感じていますが、光栄なことに、私たちはこのハリウッドでリニューアルオープンとなるレストランのコンセプトづくりから携わることとなったのです。

コンセプトシートの一部

 

日本の土地ごとの食材やものづくりの技術、伝統と文化。観光地として知られる土地だけではない日本のローカルにスポットを当て、それらのローカルとローカルを繋げながら、インターナショナルな場へと結び付けていく。日本で培われているもの・ことがロサンゼルスの地でローカライズされていくこともとても重要だととらえ、コンセプトを<INTER LOCAL>と置きながら、それぞれの地域に根差した食材のルーツやそれぞれが持つ個性、手仕事の背景、風土がもたらす物語の一片一片を集めていきました。

艶めき、鈍い輝き、馴染んでいく風合い
経年変化もエッセンスになっていく

このプロジェクトでスティルウォーターの最大の仕事となったのは、シェフの料理を魅せるための「器を選ぶ」というもの。
「選ぶ」という言葉には
・多くのものの中から意にかなうものを取り出す
・適切な材料を取り集めて書物を作る
(旺文社 国語辞典第12版より)という意味があります。

セレクトにおけるテーマとしたのが以下の3つ。
●MATERIAL
自然素材をベースに作られたもの。一点一点異なる表情を持つ道具、風合いや手触り、質感などを大切にしたものづくりを追求しているもの。

●PASSEGE OF TIME
経年変化していく道具の面白さを伝えていく。使い込むことで表情に艶が出てくるもの。
技術が継承されてきた時間の経過、その土地や地域の景色などを感じられるもの。

●MODERN
質感にこだわりたい一方でフォルムやサイズ感がモダンであることも大切。コーディネートすることで粋な空気感を演出しモダンな世界感をつくること。

お話をいただいた当初はシェフも店名も決まっておらず、手探りのなかスタートしましたが、軸となるコンセプトを立て、JAPAN HOUSEという場所で日本のものづくりの丁寧さや美しさ、その土地の空気や気配を感じてもらうためにどんな手法があるのかを考えました。
とりわけ、移ろう四季をお皿の上で表現するシェフの感覚にも寄り添える器たちを紹介していく工程は、予算や期間などさまざまな条件があるなかで「意にかなうものを取り出し」「適切なものとして集め」、 “五感で愉しむ日本らしさ”を届けることだったと、振り返りながら思うのです。

<INTER LOCAL>のコンセプトになぞらえ、その風土だからこそ生まれた原材料や素材で仕上げられたものを、磁器、陶器、漆、木工、金工、ガラスなどバランスよく体感してもらえるよう心掛けもしました。使い続けることで艶が出てくるもの、鈍い輝きが増すもの、風合いが馴染んでくることも、選ぶ際に大切にした要素でした。




そしてここには、連綿と受け継がれた技法と経験を自負し、届く人を思い描きながら日々ものづくりに向き合う作り手のみなさんがいます。海外発送の手続き上の手間にも快く付き合ってくださり、感謝しかありません。ひとりでも多くの作り手さん、ひとつでも多くの器を紹介し、現地の方々に見て触って体感してもらいたい、という気持ちも膨らんで納期ギリギリまで奔走し、飛び立ったあとも器たちが割れていないか、無事にお店に届いてくれるのか…現地からの報告をどきどきしながら待っていたことも思い出します。

そして、2023年6月のオープンから一年。
穀物と豊穣の神「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」から名付けられた懐石レストラン「UKA」は、佐賀県伊万里市生まれのシェフ・満江義隆さん率いるチームによりミシュランガイド・カリフォルニアで一つ星を獲得しました。そして2025年も。

ハリウッドというエンターテインメントとカルチャー発信の地で、UKAでは日本の作り手たちが手掛けた器や椀、酒器や茶器が料理と寄り添い、今日も誰かの目と心に触れている。そのことを想像すると、遠い海の向こうが少しだけ、私たちにも近づくように思えるのでした。