Works2024.11.08

Dialogue1 対話の力

Dialogue1 対話の力

スティルウォーターのメンバーたちが、それぞれ日頃どんなことを考えているのか? 何を大切にしながら暮らし、働いているのか? について、いつもと同じようにお茶をしながら座談会形式でご紹介するページです。
記念すべき第一回のテーマは「対話の力」。


●Prolile 詳細はこちらから
白石宏子
好奇心の赴くままに経験を紡いできたが、総じて、人の才能を活かすことを仕事にしている。 折からの食いしんぼうで、おいしいものは食べてインプットするのがモットー。

青木佑子
人との出会いから生まれるエネルギーや衝動を、表現の場につなげるプロジェクトを手がける。ライフワークとして「ものがたり」を基軸にしたプロジェクトを進行中。

玉置純子
さまざまなクライアントとの協業を分析、企画、開発、作文、言葉とビジュアルで伝えながら楽しむ。日々の暮らしの中で、感性と感受性をひらいていくことを大切にしている。

吉倉理紗子
人との出会いや対話を楽しみながら、物事を言語化・可視化し幅広いプロジェクトの進行を担当している。 何事も、興味があったらまずはやってみる!がモットー。

村田麻実
雑誌編集、飲食業、地域活性、森の調査、遺物整理など、これまでの多様な経験を織り交ぜ切り貼りする編集力と、「なんとかする力」で生きる。



尊重的、対話的、ビジョン的。

対話にもそれぞれのかたちがある。

 

――stillwaterが、「対話」をさまざまな仕事に活かしてきた経緯について教えてください。

白石 これまでインタビューはたくさんやってきたけど、「対話」っていう言葉を使いはじめたのはここ数年なのかな?

玉置 コロナ(COVID-19)が広がってきた頃だったかな。あとすごく大きいのは、パワーズ行動学※1(コロナ渦中は前身のメソッド)だと思う。統計学を用いたメソッドをみんなで学んだことで、お互いに違う正義があるとか、相手がどう捉えるのか?とか、自分と相手の解釈が違うということが分かるようになったんだよね。理解したことをお互いに共有するようになって、そこから対話を深めることで、より自分も自己確認や状況確認ができると気づいていったと思っていて。

白石
 そうだね。対話の時間そのものに意味があることに気がついた、というか。「対話」って自分も含め参加者の心づもりも必要だから、“話せる場づくり”はしてきていると思う。

青木 私たちはこれまでも結構深く対話はしてきたと思うけど、(コロナ禍で)より努力しないと話せないという状況だったから、大切さに気付いたっていうのはあったと思うな。

玉置 なくなって初めて気づいたよね。戸惑い、不安、恐れ、悲しみとかネガティブな感情って日常的にあると思うけど、それにぶつかった時にこそヒントがあるから、オンラインで繋ぎながら知らず知らずのうちにそれぞれの気持ちの点検をすごくやってたんだよね。

青木 同じ時期にみんなで潜在意識のワークショップも受けていたから、自分との対話もあり、相手の話を傾聴することもすごく大事だっていうことにも気づいたよね。

白石 対話って2人の場合もあれば複数の場合もあって、でも場にある話題はそのメンバーだからこそ生まれているから、その偶然性と必然性はすごく信じていて。誰かの気づきは誰かの学びになっているから、自分だけではたどり着けないところがおもしろいところだと思うし、コワーキングしている感じかな。

――「対話」そのものを、それぞれどのように捉えていますか?

青木 お互いがどんなことを考えているのかを認識し合うために必要なものだな、と思ってる。ひとつのものを見ても、それぞれ感じることが違うということを分かり合うために。対話をし続けることはお互いのことを諦めない、終わらせない、というか…。

白石 他人との関係性のなかで大事なプロセスっていうこと?

青木 うん。

白石 相互理解のためってことだよね。現状だと、対話の場では佑子には私たちのそばにいてもらって、ということが多いけど、佑子が自分でその対話の場をつくるっていうこともあったりするの?

青木 私にとってはオトコトバヅクリ※2も同じようなものだから。表現は違えど、私のなかでは対話が含まれているものっていう認識でいるよ。

玉置 佑子の対話って、見ていていつも思うのは「尊重型」なのね。言葉を交わすことだけが対話ではなくて、相手に言葉にもならない“何か”があることを「知ってるよ」「分かっているよ」だから「いつでも出していいよ」という、相手を“尊重している”ということ。対話のなかでも特に佑子はそれを尊重しているんだと思う。だから海のレシピprojectうみつづり※3の手法もそうだし、オトコトバヅクリもそうなんだよね。私はどちらかというと雨ちゃん(白石)とも微妙に違って、その人がもしかしたら見たいと思っているビジョンを置いてみながら、未来や今いる場所の違う風景を見せながらやっていく対話。雨ちゃんはどちらかというとその人の中から取り出すというか、質問を投げかけることでその人自身が発見できたり深堀りできたり、というようなスタイルだから一番「対話」っぽいかなと。

白石 そうだね。玉置の視点は完全にブランディングだと思う。その人がまだ気づいていない段階なんだけど、ゴールが見えてるから“こうしたほうがいい!”っていう、自身の言葉が出てくるような質問を投げていくっていう感じのインタビューだもんね。

玉置 それは相手にとってブランディングが必要な場合の、インナーブランディングからの全体ブランディング手法のときね。私の中では佑子的な「尊重対話」や雨ちゃんの「対話的対話」でみたいな話でいくと、たしかに基本的にはもう「こうしたほうがきっといいよ!」が見えるから、先に伝えてしまうんだけど。ただ、その人自身が発見して腑に落ちていかないといけないから、プロセスを踏んで一緒にいくことがやっていておもしろい。もちろん違うアウトプットになることもあって、だからこそインナーブランディングをやっていく楽しさがあるのかもしれない。自分が置いた布石が、その人たちの人生の中で化学変化が起きていること自体が嬉しいんだよね。

あと、これまでのクリエイティブコンサルティングの蓄積のなかで感じてきたのは、インタビューをすると、経営者も社員の方も同じくらいの熱量で“何か”や“想い”を持っていて、それがブランドをつくるための骨格になっているということ。だから、一人ひとりの想いを取り出す作業がブランディングにも欠かせないし、付加価値をつけるにも欠かせないから、きちんと掘り下げたいという気持ちが強くなっていったんだよね。それぞれみんな考えを持っているから、対話して聞いてみたいっていう。

――これまで積み重ねた「対話」が波及している感覚はありますか?

白石 時代が変わったのか、影響を及ぼしているのかはわからないけど、「対話」っていう言葉が世の中でこんなに語られるようになるとは思わなかったかな…コロナの影響もあるんだろうね。誰かと会話することが外界とつながる方法だったわけで。

青木 でも雨ちゃんは意外と人見知りじゃない?知らないところに行った時の対話の始め方って、なにか方法とかはあるの?

白石 司会をするときと同じように、スイッチをONにして臨むかもしれない。人見知りだから役回りがあるほうがラクで(笑)。

玉置 丸の内シェフズクラブ※4なんてまさに、対話じゃない?シェフというプロフェッショナルの方々は心の内を話すこともなかなかできないけど、同じ目線で確認をしながら会話をしていくことは完全に「対話の仕事」だと思ってるよ。

白石 そうだね。シェフ一人ひとりと対話をして、その人の良さを知ったうえで「この構成でいこう」とスカウトして、第二期のみなさんに集まっていただいているから。その前に第一期のレジェンドたちにもインタビューをして、シェフズクラブがどんなふうに変化していくといいかとか、どういった組織になるべきかも伺ったしね。

玉置 本質に近づいていくようなことをやっているわけだから、翻訳的な仕事としての対話もとても需要があるなと思う。

青木 仕事では翻訳的なものは多いよね。

玉置 多いし、さっきも話したように「尊重的対話」「対話的対話」「ビジョン的対話」みたいな、さまざまな対話があると思う。私は長く海外に住んでいたこともあって、雨ちゃんも最初の職場は海外だったし、コミュニケーションの取り方に遠慮がないというか、疑問に思ったことは聞いて、間違ったことは指摘できるっていうチームだから、そこが「外国っぽい」と言われたこともあって。いま思えば対話の深さ、相手の内側に入っていく角度の鋭さっていうのがあるのかもしれない。日本は「みなまで言わずとも」みたいな慎ましい文化もあって、その弊害がいろんなコミュニケーションの場で起きているから、いま私たちはその部分で役に立っているのかなと思えるね。

――そこに効率を求めないですしね。いつのまにかインタビューになっていて、引き出されたものが素敵なクリエイティブによって良いものができている、という流れができている。

白石 いつからこのスタイルなんだろうね?理紗子はスティルウォーターに入ってどう思った?

吉倉 みんなめっちゃしゃべってるな!と思いました(笑)。同じ机でひたすら話していて何も進んでない、みたいな(笑)だからもうオフィス来たら話す、作業はひとりで!みたいになってるかもしれない。

青木 効率わるい!(笑)

吉倉 でもそれが強みだと思う。

白石 話す前提ね(笑)。コロナ中って「奪われた雑談」みたいなのがあるじゃない。喫煙所トークとか、エレベーターまでの移動時間の会話とか。それによって人との関係が希薄になったみたいな時期だったのに、私たちはどうして対話ということにまでたどり着いちゃったんだろう…みたいなことを思ったんだよね。むしろオンラインでめちゃくちゃ話したよね。

青木 そうそう、ヒートアップしたらその人のネットが止まるみたいなのもあった(笑)

――対話の力や、その可能性をどう感じていますか?

白石 すべての始まりだし、道のりでもあり、終結点でもあるという感じかな。対話があることで本質に気づける。本質を見つけるための大事なプロセスだし、しかもそれがフレキシブルだということ。変幻自在で伸び縮み自由で、誰のものでもないニュートラルさが心地いい。ニュートラルさはスティルウォーターが大事にしていることだけど、そのスタンスが対話という場でも色濃く表現されていると思う。

青木 自分の気持ちで話さないと対話にならないから、スティルウォーターで対話を仕事にするときって、たぶん、ありのままでいられる雰囲気をつくったりしてお互いが自分のことを話そうっていう気持ちになれる環境づくりは得意なのかなと、思う。心のバリアを取ることを目的にしてきたわけじゃないけど、話す相手が居心地のいい環境に身を置くことで話したいと思えるのかな。私も自分の言葉で話すし、だから雨ちゃんが言ったみたいにメンバーが違えば違うし、そのメンバーでしか生まれないものがあるんだろうね。

玉置 大きな会社だけはなくて、パートナーシップとかチームとか、どんな単位でも大事っていうのはすごく感じるよね。

――ちなみに、3人のなかではいつもどんな対話をしているのですか?

玉置 基本は疑問点で、なぜそう思ったか?を徹底的に聞くよね。なぜやりたいか、やりたくないか。

白石 その場で聞けなくても、あの言葉は何から来てるんだろうね?ってあとで確認したり。

青木 たとえば雨ちゃんが何か行動したことに対して「私はこう感じたんだけど、玉置ちゃんはどう感じた?」とかはよくやるよね。理解し合いたいから「なぜあの発言?」みたいな、小さなことも話してるかも。

白石 だから理解は深まるよね。

玉置 ただ理紗子を迎えるにあたっては、自分たちの何が価値かということを明確化しないと、人まで巻き込んでいくのに…っていうことで、意識的にインタビューの仕事しないと!という気持ちにはなったかもしれない。この3人が話していることは「ただしゃべっているだけではなくて、対話をしてるんだよ~!」みたいにしていたと思う(笑)

吉倉 それは当時感じました。入ったときに「わぁ、会社っぽく見せようとしてくれてるんだ!」って(笑)

全員
 あはははは!

吉倉 私がいることで、組織というものにしようとしてるんだっていうのは感じた(笑)

白石 恥ずかしい…(笑)

青木 わかっちゃうものなんだよね。理紗ちゃんが来てくれてから、伝え方を意識したり、伝えたあとの反応を見ることで、この3人にはない感覚があるんだっていうことも分かったかもしれない。

白石 同じ価値観のメンバーだけだと凝り固まっていくからね。理紗子が「これってどこにでもあることじゃないですよ」とか「これが売りになりますよ」とかを客観的に言ってくれたことが、私たちにとっても発見になったよね。

玉置 ちょっとした勇気になったし、いい客観性が入ってきたなと思ったよ。


循環を生むために向き合う、ひとつひとつの仕事。

そこに必然的にあったのが「対話」。


玉置
 私たちはデザイナーではないし、文章が好きだけど編集者やライターでもない。インタビューも好きだけけどこれだけで成り立たせようと思っているわけでもなくて、プロダクトアウトもしたい。長年、何が強みかっていうのが言えず、何のために色々としたいんだろう?と考えたときに「対話がしたいんだ」と、すべてそこに繋がっていったんだよね。それくらいの時期からより意識的に「対話」になっていったんだと思う。

白石 「お茶の時間」も対話をプログラムにしたやつだったよね?

玉置 The days※5もスタートしたとたんにコロナで動けなくなっちゃって。営業にも行けなかったから、当時のオフィスで、ORGANIC BAKESさんと一緒にサロン的なものをやろうっていうのが始まりだったのね。お客さんを少人数で招いてお茶をして、オーナーのリカさんとの交流を楽しみながら過ごしてもらう。みなさんが勇気づけられて元気になって帰っていくのを見ながら「あぁ、このためにお茶(ハーブティーとコーヒー)を作ったんだよな」と思えたし、人と話すということだけで自分のなかにある何かが腑に落ちて帰っていくのを感じたのよ。それがきっかけで「私と向き合う時間」※6につながったっていったんだよね。対話は、自分のなかの言葉を探す作業でもあるじゃない?だから、それを外に出す訓練というか…その人の気持ちや考えているものをきちんと言葉にすることって、それこそ生きている意味だと思っていて。言わなければ大事にしていることすらわからないままだし。たくさんの人に伝えるということではなくても、その人自身が向き合うことをしないといけない。なんとなくで仕事したり、なんとなく生きていくのってもったいないからさ。自分と向き合うことは私自身もやっていたいし、stillwaterのチームだったらもっと相手をいざなっていけるんじゃないかな、とも思う。日記を書いているのとは違うから、これは一人ではできないんだよね。聞いてくれるから答えられるって不思議だよね。

青木 ほんとそう思う。

玉置 stillwaterはさまざまなものを循環させるために仕事をしていて、たとえばランスヤナギダテさんとの仕事※7の場合も、素敵な写真とその写真を尊重してくれる出で立ちがあって、編集作業を加えて冊子という形にならないと、重ねてきた対話の素晴らしさが第三者には伝わっていかないから、そこはクリエイションの仕事だと思っていて。対話してきたことがきちんと意図してデザインされることで、私たちがやってきたことも帰結するから、デザイナーさんやフォトグラファーさん、ライターさんとの対話も大事にしたいよね。

写真:Ahlum Kim
文:Asami Murata
対話した日:2024年7月



※1 パワーズ行動学

東洋と西洋で進化を続ける世界の叡智と、最新の心理学を照らし合わせ、検証・分析したオリジナルのメソッド。ヨギー・インスティテュートで学ぶことができる。

※2 オトコトバヅクリ
演出家・大谷賢治郎と、音楽家・青柳拓次が導き手となり、「音」と「言葉」を用いてそこでしか生まれない「場」をみんなでつくる、参加型のライブワークショップ。

※3 海のレシピproject
海にまつわる「ものがたり」と「食」を通して、海の情報をオリジナルコンテンツに編集し伝えていくウェブメディア。「うみつづり」は、海のレシピprojectから派生した企画。全国各地の海にまつわる思い出を集め、集まった海の思い出を、アーティストと一緒にオリジナルコンテンツ化していくプロジェクト。

※4 丸の内シェフズクラブ
ひとりひとりの食への感受性を高めながら、食をテーマに社会課題に取り組むきっかけを創出する三菱地所「EAT&LEAD」のなかで構成されている、シェフ・パティシエ・バーテンダーによるプロジェクト(任意団体)。スティルウォーターは事務局を担当し、企画・運営に携わる。

※5 The days
“日々を豊かに”と、2017年に立上げたオリジナルブランド。現在は、生豆で輸入した豆を福島県須賀川市「Ordinary coffee Roaster」で焙煎したコーヒーを提供。描きたかったシーンは日常の食卓。ロゴは「日の出から日没まで」を表現。

※6 私と向き合う時間
働き世代の女性に向けて、より充実した選択肢を共に学びサポートすることを目指した三菱地所のプロジェクト「Will Conscious Marunouchi」のなかで企画している座談会イベント。生理・妊活・更年期など女性特有の悩みに対し、ゲストを迎えマインドや生き方そのものに向き合う時間を創出。スティルウォーターはプロジェクト全体のブランディングやコンテンツ企画を担当。

※7 Restaurant REIMS YANAGIDATE
レストランのリニューアルを機に、シェフの頭の中にある未知数の芸術性を形にするべくブックレットを製作。柳舘功シェフへのインタビューを通じて、料理への想いや創造性を引き出すためのSNS投稿・インスタライブの企画等を担当。